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クリードは横目でグロウをみながら唇を動かさずに囁いた。
「僕たちは旅の者なんですが、道に迷ってしまって……すいませんがこの辺りのことを詳しくおしえてもらえますか?」
クリードがすらすらと嘘をついたことに、グロウは感心した。
こういう場面では、クリードに任しておいたほうがいい。
グロウは黙ったまま首を縦に振って同意したふりをする。
「別に構わないが、もう夜更けだ。今日は休んだらどうだ? 明日街まで案内しよう……」
騎士風の男は二人を招き入れ、スープを渡しながら言った。
風貌に似合わず人のよい性格だ。笑うと驚くほど愛敬がある。
なんとなく、父親的な雰囲気をもつ騎士だ。
クリードはホッと胸をなでおろした。
キレた性格の人間なら、怪しいと切り捨てられていたかもしれないし、どこかに売り飛ばされていたかもしれないからだ。
「少し食べたほうがいい……顔色が悪いぞ」
騎士風の男は腰を下ろすと、自分も食べ始めた。二人ともこちらに飛ばされてから何も食べていなかったので、すぐに食べてしまった。
きのこと鳥肉の簡単なスープだが、すきっ腹にはこの上ないご馳走に思える。
「そういえば……まだ名前を言ってなかったな。俺はジークフリードだ……ジークと呼んでくれ、君達は?」
ジークと名乗る騎士は二人を見ながら尋ねた。
「僕はクリードです、彼女はグロウ」
グロウは口一杯に食べていたので頷いて挨拶をし、クリードが自己紹介した。
「クリードとグロウか……よろしくな」
ジークは握手しながらニッコリ笑った。
「こちらこそ……よろしくです」
クリードも握手しながら言った。
人の柄の良さか自然と敬語になってしまう。
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