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チュン、チュン…チュチュ‥チュ…―――
「良い朝だね、空が澄み切っている。」
塀は崩れ、瓦が吹き飛んでしまっている屋敷から一人の声、
陽が昇りさほど時間は経っていない玄関の前で、屋敷の主――紅邵可が晴れわたる空を仰いでいた。
そこへどこからともなく表れた気配──とともに門を叩く音、どうやら客人のようだ。その気配はとても穏やかで、姿を見ていないのに品のある人間だとわかる。
その気配に心当たりがあるのか、邵可はすぐに門の戸を開けた。
目の前には薄桃色の布で頭を隠している一人の―――少女。歳は秀麗とそう変わりないように見える。布が邪魔で顔が良く見えない…
邵可はその姿を見るなり、ほほ笑んだ。柔らかく口を開く。
「久しぶりだね、随分とお美しくなられて、見違えましたよ。」
邵可の声を聞いて安心したのか、軽く会釈をしながら鈴の声を響かす――
「お久しぶりです、邵可様。」
ガラス細工で作った古筝(こそう)を連想させるその声は、誰もが聞きいってしまうだろう。鳥達もその声に釣られてか、門の屋根には数匹止まっている。
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