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「土方さんがね、『小野川組』のこと話してたよ」
「何…?」
新撰組副長の名前を出してそう言うと、楠木は顔を上げ、僅かに口端を上げた。
自分の組の恐ろしさが広がっているとでも思ったのか。
この状況で笑えるなんて、なかなか肝の座った男だ。
いや、この状況だからこそ、笑うしかないのか。
と、腰で携帯が震える。
もう少し遊んでみようかと思ったが、時間切れらしい。
「あの鬼が俺達のことを何と」
言っていた?
おそらくそう繋がったであろう言葉を紡ぐには、男には首が足りなかった。
いや、正確に言えば、身体が足りなかったのか。
顔に飛んだ返り血を手の甲で拭いながら、部屋の隅まで飛んだ首に向かって律儀に答えてやる。
「『最近調子にのってる雑魚』、だってさ。」
もっとも、冥土の土産にするにはもう既に遅いだろうが。
のんびりとした動作で刀を懐紙で拭いて血を落とすと、既に切れた携帯を取り、リダイヤルではなく、先ほどかかってきた番号とは別の番号にかける。
一回、二回、三回。
ついついコール音を数えてしまうのは、昔からの癖だ。
四回目を唱える前に、相手が電話を取る。
「あ、山崎さん?…うん、そう、囲まれて。爆発があったとか連絡入らなかった?……あー、そうそう、うん、そこにいる。敵?全滅。僕は無傷だよ。『小野川組』だって。…了解。死体処理よろしく。」
簡潔に用件を伝え、1分もしない内に電話を切る。
返り血で汚れた隊服を脱いで脇に抱えると、歩く度に跳ねる血に眉をしかめながらその場を後にした。
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