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後ろを振り向く余裕などなかった。ただひたすら走り続ける。
ぐったりとした子犬をぎゅっと抱き締め、追いかけてくる影から必死に逃げていた。
──助けて……!
叫びたい。
けど、言葉が出ない。
人通りの少ない道に入った。
薄暗い通路を闇雲に突っ走る──が、足はもう限界だった。
小石に躓く。呻き声を上げて、地面に倒れた。
意識が遠退いていくのを堪えながら立ち上がろうとするが、身体がそれを許さない。
「──だ、大丈夫ですか!?」
幻聴、だろうか。
──でも、それでも。頼るしかない。賭けるしかない。
「……これ、を……」
子犬を──託した。
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