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暗い暗い山の奥。
月明かりに照らされたある社の前に美沙姫様は立っておりました。
そしてそこには美沙姫様と向かい合うように立っている者が1人居りました。
「…お会いしとうございました…。」
美沙姫様はそう言うと一歩前進し、前に立っている者の手をとりました。
「…美沙…すまない…俺にはもう…時間がないようだ…。」
そう言ったのは漆黒の黒い髪に深紅の眼が特徴的な青年でした。
「一体どうなされたのですか?私はずっとお待ち申し上げて居りましたわ。…ですからお屋敷から連れ出して下さった時にはあなたと一緒になれるのだと…そう思いましたのにッ…!」
青年の手をギュッと握りしめ美沙姫様は声を荒げます。
苦しそうな顔をし、青年は言いました。
「…すまない…俺は…本当は…」
青年が訳を話だそうとしたその時。
「姫様。その男はあたしのモノですわ。勝手に連れて行くのは許しません。」
人形の姿から絶世の美女へと姿を変えた璃乃がほの暗い木陰から出てきました。
「璃乃…ちゃん…?」
美沙姫様は驚きのあまり言葉が出てきません。
「お前は…」
「…フフ…お久しぶり、黒鬼・紅雅。」
妖艶な笑みを浮かべて璃乃はスルスルと2人に近づきます。
「…ぉ…鬼…とはどういうことですの…?」
震える声で美沙姫様は尋ねます。
「…あら?知らなかったの?この男は異形のモノ。人からは鬼と呼ばれる化け物ですわ。」
蔑むように笑いながら話す璃乃。
もはやその姿は共に笑い合った日々など無かったかのようです。
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