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「私が病に伏せる前のことよ…」
静かな声で美沙姫様は話し出しました。
-そう、それは今から数年前のお話ですわ。
私はいつも1人でこの離れの自分のお部屋で遊んでいましたの。
お父様はお仕事ですし、お母様は亡くなっていて、さらには同じ年頃の方が居なかったので誰も私と遊んでくれるような方は居ませんでしたの。
それはとても寂しかったですわ。
毎日1人でお勉強して、歌を詠んだり、読書をしたり…ところがある日、この広いお庭にお客様がやって来たんですの。
それは私より少し年上の男の子でしたわ。
漆黒の髪に深紅の眼をしていらっしゃいました。
彼はいつも1人の私を知っていたようでしたわ。
私の寂しそうな雰囲気につい来てしまったと、そう仰っていました。
それからはとても楽しかった。
毎日一緒に遊んでくれたんですの。
時にはお屋敷の皆に内緒で山へ行ったりもしましたわ。
そして私達は惹かれ合いました。
私は彼の持つ深紅の
眼がとても好きだったの。
彼も私のことを深く愛してくれていましたわ。
だけどその幸せは長くは続きませんでした。
「俺は美沙のことを愛している。だが、俺はまだ美沙を迎え入れることが出来ない。準備が整うまで待っていてくれないか?必ず迎えに来るから。」
彼はそう言って私の前から姿を消してしまいました。
そしてその後、私は病に伏せってしまいましたの。
私はあの方を忘れられません。
どんなに良い縁談が舞い込んで来たとしても、私はいつまでもあの方が迎えに来てくれるのを待ちますわ。-
真っ直ぐに前を見つめ、美沙姫様はそう言って話を結びました。
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