1:10月

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 すると、園木さんはようやくあたしを振り返った。 「どうしてそんなことを?」 「なんとなく。どんなことが大変だとか、どんなことに気をつけてるとか、気になって……園木さん以外にお話書いたりしてる知り合い、いないしね」 「なるほど」  園木さんはまた微笑んで、それから机に向かった。ふむ、と腕を組む。  園木さんは小説を書くのが趣味だ。決して仕事ではない、らしい。だから読ませてくれない。粗筋はおろか、お話のジャンルすらも教えてくれない。始めの頃はあたしも何度もせがんだけれど、もう諦めている。でも、興味は無くしていない。  園木さんはそのまましばらく考えて、ぽつりと呟く。 「色、ですかね」 「色? 赤とか青とかの?」 「そう。例えば……ほら」  すっと指を伸ばす。その先には、白んだ空。 「あれ、何色に見えますか?」 「え? えっと……水色っていうか、白っぽい青っていうか」 あたしの濁した答えに、園木さんは、ふふ、と笑う。 「難しいですよね、空の色って」 「……ふむう。いつも見てるもんなのにな」 「空色なんて便利な言葉もありますが、どっちにしろそれは『空の色』、ですからね。空の色はいつも同じではないでしょう。なら、今の空色はどんな色か? 水色、淡い青、向こうの方はもっと白みがかって……でも澄んだ、あお?」  遠い目をして、園木さんは言う。  まるであたしと違う世界を見ているようだ。園木さんの世界は、園木さんにしか見えない。  それがとても、くやしい。
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