1:10月

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 しばらくぼうっと考えていた園木さんは、はっとしてあたしを見る。 「脳内旅行からお戻りで?」  あたしが笑うと、園木さんは頬を掻いた。  つまりですね、と彼は言う。 「感覚的なもの――色とか、味とか、感触とか、痛みのような。登場人物は何を見ているのか。彼らが食べる料理はどんな味なのか。怪我をしたら、それはどういう風に痛いのか――そういうことを文字で伝え、共有してもらうのは、とても難しいことなんです。特に、色は。木の葉の色、空の色、現実にそれを見ていても、表すのはこんなに難しい」  もちろん、これは僕の考えなんですけどね。そう言って、園木さんはくすりと笑う。  あたしは、分かったような分からないような曖昧な感覚で、ゆっくりとお茶をすすった。やっぱりこの人にはついていけない。園木さんいわく、方向性が違うから。その意味も、よく、分からない。  さあ、と園木さんはようやくしっかりあたしに向いた。 「また僕の長話に付き合わせてしまいましたね。申し訳ないです。あまり若いお嬢さんに向いた話ではなかったかな」  あたしはすました顔で答える。 「いいよ、あたしが訊いた話だから」 「そういえばそうでした。ふふ、ハナちゃんは聞き上手なので、ついだらだらと話してしまいます」 「褒めても何も出ないよ」 「では僕がお茶菓子くらい出しましょうか」 「遠慮しとく。長居すると、瑠璃さんに悪いから」  そうですか、と園木さんはしょんぼりと背中を丸めた。かわいい。 「では、とっとと勉強を片付けましょう。時間が余れば」 「食ってけってか。よっぽどいいお菓子でも入ったの?」  すると彼は、嬉しそうに微笑んだ。 「ええ。白い鯛焼きですよ。もちもちして美味しいそうです。知っていますか?」  
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