1:10月

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「――あ、そろそろ帰らなきゃ」  あたしはふと携帯の時間表示を見て、ぱたぱたと筆記用具を片付けた。園木さんは窓の外に視線を移した。 「もう薄暗くなってきましたか。早いですね。秋も更けてきているのですね」 「……別に暗くなるのは構わないんだけど」 「え? ――ああ、すみません」  いいの、園木さんが謝ることじゃないから。なんて、流石に言えなくって。  あたしは慌てて立ち上がろうとして――でも、間に合わなかった。  背中でするりと襖が開く。 「あら。またいらっしゃってたのね。一色さん」 「……どうも。お邪魔してます」  綺麗なお姉さん。あたしはいつも瑠璃さんを見るとそれだけ思う。  真川瑠璃。優しくはない。美人だけど、それをちゃんと自覚している女性だった。あたしはあんまり好きじゃないタイプ。そして、たぶん、彼女もあたしを好きではない。  瑠璃さんはあたしににこりともせず、園木さんに向いた。 「家庭教師は結構だけれど、体は大丈夫なの? 二藍」 「ああ。どうして縹さんにわざわざウチまで来てもらっているんですか。本当なら、僕が縹さんのお宅に伺うべきなのに」  園木さんもそっけない。いやだ、こんな空気。だから早く帰りたかったのに。  瑠璃さんが次に口を開く前に、あたしは立ち上がった。 「あたし、もう帰らなくちゃならないので。お邪魔しました。ありがと、先生」 「いえいえ、またいつでもどうぞ」 「……はい。また」  そこでお別れのつもりが、園木さんは玄関まで見送ってくれた。  瑠璃さんも、一緒。 「失礼しました」  ぺこりと頭を下げる。園木さんがにこやかに手を振ってくれる。  がらりと引き戸を開けた。風が冷たい。ブレザーの前をきつく合わせると、あたしはもう一度頭を下げるべきかと悩んで――  
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