1:10月

6/6
前へ
/8ページ
次へ
「縹さん」  園木さんに呼び止められた。  恐る恐る振り返ると、またにっこりと笑って、 「今度は外に食べにいきましょうか」  ……空気を読め、この能天気!  あたしは引き攣った笑顔で答えた。 「機会があれば、是非?」 「それは嬉しい約束ですね」  瑠璃さんの目が釣りあがったのを見て、じゃ、とあたしは逃げ出した。  あたしはとぼとぼと歩きながら、考える。  本当に変なカップルだと思う。一緒に住んでるのに、あんなに仲悪そうで。少しはあたしのせいだけど。 「女子高生にやきもち妬かないでよ。いい大人がさあ……」  困るあたしで遊ぶ園木さんも園木さんだけど。  でも。 「美味しかったな、白い鯛焼き」  結局ご馳走になっていたわけだけど、実は話に聞いたことはあって、ずっと食べてもみたかったのだ。ほんとに食べにいけたらいいな。かなり涼しくなってきたし。屋台とかで売ってないかな。園木さんの体調がいいときに、いつか。瑠璃さんには悪いけど。 「……あ」  ふと顔をあげると、目の前は下り坂で。  低く広がる家々の隙間から、赫い光が射していた。  淡い赤から深い紺色へ、柔らかなグラデーションが空を包む。園木さんならなんて表現するだろうか。あたしなんかよりずっと幻想的な言葉を使うんだろう。  次はいつお邪魔できるだろう――定期考査のスケジュールを思い出しながら、あたしは落ち葉を踏みしめて歩いていった。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加