3人が本棚に入れています
本棚に追加
「縹さん」
園木さんに呼び止められた。
恐る恐る振り返ると、またにっこりと笑って、
「今度は外に食べにいきましょうか」
……空気を読め、この能天気!
あたしは引き攣った笑顔で答えた。
「機会があれば、是非?」
「それは嬉しい約束ですね」
瑠璃さんの目が釣りあがったのを見て、じゃ、とあたしは逃げ出した。
あたしはとぼとぼと歩きながら、考える。
本当に変なカップルだと思う。一緒に住んでるのに、あんなに仲悪そうで。少しはあたしのせいだけど。
「女子高生にやきもち妬かないでよ。いい大人がさあ……」
困るあたしで遊ぶ園木さんも園木さんだけど。
でも。
「美味しかったな、白い鯛焼き」
結局ご馳走になっていたわけだけど、実は話に聞いたことはあって、ずっと食べてもみたかったのだ。ほんとに食べにいけたらいいな。かなり涼しくなってきたし。屋台とかで売ってないかな。園木さんの体調がいいときに、いつか。瑠璃さんには悪いけど。
「……あ」
ふと顔をあげると、目の前は下り坂で。
低く広がる家々の隙間から、赫い光が射していた。
淡い赤から深い紺色へ、柔らかなグラデーションが空を包む。園木さんならなんて表現するだろうか。あたしなんかよりずっと幻想的な言葉を使うんだろう。
次はいつお邪魔できるだろう――定期考査のスケジュールを思い出しながら、あたしは落ち葉を踏みしめて歩いていった。
最初のコメントを投稿しよう!