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「…こっち来て。」
俺がそう言うと、お前がこいや、なんて微笑しながらも来てくれる。
間近にある愛しい人の顔。
「あんな…俺…」
コンコン
…あぁ
ほんまについてへん。
何もしらん石田は、普通に扉に向かった。
「そろそろリハ始まるので…」
マネージャーか。
なぁ、神様。
いつになったら、言えるんかな。
…好きって。
──────────
仕事終わりの楽屋。
「なぁ、」
また俺から話かける。
「何?」
衣装から着替えながら、返事をしてくる石田。
シャツを脱いだときに見える、華奢な体。
薄っぺら。
俺が女やったら、絶対好きにならへんわ。
ほんま…女やったら良かったのに。
…もう、耐えられへん。
ギュッ
ベルトをまだ締め切ってない石田の手を握る。
びっくりした顔で俺を見る石田。
女々しいって思われるかもしらん、嫌われるかもしらん。
けど俺、もう我慢出来ひん。
「…きや」
「へ…?」
思わず俯く。
「好きや…石田ぁ」
お菓子を買ってもらえなかった子供のように、
母親にすがり付く三歳児のように、
儚い声。
──あぁ、なんて情けない
ほら、困った顔してる。
石田の手は、薄くて、俺より大きいのに、なんとも頼りない。
けど…それ以上に温かい。
そんな悲しそうな顔しないで。
「…本気で言うてるん?」
『嘘に決まってるやん』って言えたら、どんなに楽なんやろ。
むっちゃどつかれるやろな。
けど、今まで通り、笑いあえるよな。
「…本気。俺ら、プライベートとか全然一緒におらんけど、俺はずっと一緒におりたいって思ってるし、石田に触れてたい。」
…ごめんな。
もう、無理やろ。
「…ごめん、井上」
知っとるよ。
分かっとる。
あぁ、神様。
目の前が真っ白。
今俺がいなくなったら、こいつ悲しむんかな。
俺のところに来たりするんかな。
いなくなるのも、悪くないかも。
俺は石田の手を離し、笑顔で楽屋を出ていった。
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