†最終章Ⅱ†「血腥い口付け」

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 レイはもう私のモノ。例え屍であったとしても、もう他の誰にも彼の姿を見せてやるつもりはない。だから、燃やす。全て焼き払う。  そして私も、もう彼から離れる気はない。 「……は、はは。成る程、ね。カルミア、キミは今まで出会った人間の中で一番狂ってるよ」 「狂わせたのは貴様だ」 「そう、そうだね。じゃあ、一緒に奈落の底まで堕ちようか」  レイの腕が、再び上がる。胸に突き刺さる刃に触れて、私に視線だけで縋る。 「これ、抜いてくれる? このままじゃ、血を貰っても魔法が使えないから」 「抜いた瞬間、傷が治るということは?」 「ないよ。聖水でついた傷は、二度と元には戻らない」  僕は嘘をつかないよ。レイの言葉に、私は再び自分の剣を握る。やけに重い剣を引き、レイの身体から刃を抜いた。刹那、強く抱き寄せられる。 「ッ、あ!?」  息が詰まり、身体が軋む。真っ赤な血に濡れた手を私の頬に添えて、飢えた獣のようにぎらつく紅い瞳に囚われる。 「もう、逃がさないよ」  噛み付くように交わされる口付け。鉄錆の臭いに、甘美な刺激が指先まで駆け巡る。薄れゆく意識が、乳白色の快感に溶け込む。 「ぁ……あぁ……」  一度離れる熱。濡れ祖ぼる視線に、しかし愛しい麗姿だけは鮮明で。絹糸のような滑らかな金糸に視界を囲われて、艶やかな紅に囚われて。  二人の周りで、紅蓮の業火が爆発した。まるで巨大な蛇のように壁を、天井を、パイプオルガンを飲み込み夜空に吼えた。 「一緒にいこう、カルミア」  目の前にいるレイは、血の気の失せた人形などではない。最初に会った時と同じ、氷のような冷たく、しかし儚さも纏う美貌が、そこにはあった。  愛などという生易しいものではない。憎しみという、苦々しいものでもない。名前の無い感情が溢れ出し、重い両腕をその首に回す。  向かう先は地獄に決まってる。だが、何も怖くはない。人間や吸血鬼などという隔てを取り去って。永遠に二人で、誰にも邪魔されずにいられるだろう。崩れた天井から顔を出す満月。身体が炎に喰われると同時に、レイが最後の口付けを落とす。  クリムゾン――それは、月下に揺らめく美しい悪夢の名前。  ――fin.
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