88833人が本棚に入れています
本棚に追加
少女は声にならない悲鳴を上げ、それを必死に堪えた。
魔法が使えず、短剣一つ使えない少女には、魔人に対抗する術が無い。腕力も乏しく、殴りかかったところで奴等に傷ひとつ負わすことができないのは、目に見えた事実だった。出血が多過ぎたせいか、あるいは魔法が頭に当たったせいか、少女の意識は朦朧としてきてそれさえも不可能となっていく。
「最後だぜぇ。“地獄の炎”」
詠唱破棄とよばれる、詠唱をしないで放たれた火属性中級魔法が、少女に向かって行く。それが命中することを確信した魔人の高笑いが響いた。
火属性魔法は、火、水、雷、土、風、光、闇、と七つある普通属性と呼ばれる一般的な魔法の属性の一つであり、少女の記憶によれば、攻撃に特化した魔法である。
その中級魔法──初級、中級、上級、最上級、神級という魔法の威力や難易度によって段階付けされたうちの、二番目の位の魔法──となれば、当たれば間違いなく死が待ち受けている。
避けられない。身を守る方法もない。
恐怖が少女の心を支配する。
──抗う術のない自分は、もうすぐ死ぬのだ。
まだ生きたい。こんなところで死にたくない。
強い感情が、心の中に渦巻く。
しかし、少女にはそれを避ける力も、悲鳴をあげる力も残っておらず、何一つ抵抗することすらできなかった少女は、短い人生を終わらす覚悟を決め、静かに目を閉じた。
.
最初のコメントを投稿しよう!