序章 少女は、少年と出会った。

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   少女は声にならない悲鳴を上げ、それを必死に堪えた。  魔法が使えず、短剣一つ使えない少女には、魔人に対抗する術が無い。腕力も乏しく、殴りかかったところで奴等に傷ひとつ負わすことができないのは、目に見えた事実だった。出血が多過ぎたせいか、あるいは魔法が頭に当たったせいか、少女の意識は朦朧としてきてそれさえも不可能となっていく。 「最後だぜぇ。“地獄の炎”」  詠唱破棄とよばれる、詠唱をしないで放たれた火属性中級魔法が、少女に向かって行く。それが命中することを確信した魔人の高笑いが響いた。  火属性魔法は、火、水、雷、土、風、光、闇、と七つある普通属性と呼ばれる一般的な魔法の属性の一つであり、少女の記憶によれば、攻撃に特化した魔法である。  その中級魔法──初級、中級、上級、最上級、神級という魔法の威力や難易度によって段階付けされたうちの、二番目の位の魔法──となれば、当たれば間違いなく死が待ち受けている。  避けられない。身を守る方法もない。  恐怖が少女の心を支配する。  ──抗う術のない自分は、もうすぐ死ぬのだ。  まだ生きたい。こんなところで死にたくない。  強い感情が、心の中に渦巻く。  しかし、少女にはそれを避ける力も、悲鳴をあげる力も残っておらず、何一つ抵抗することすらできなかった少女は、短い人生を終わらす覚悟を決め、静かに目を閉じた。 .
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