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崖から海を見下ろしながら
ろくでもないところだと
ラウールは考えていた。
この島に上陸して
わずか数日しかたっていないが
晴れ晴れとした青い海など
見たことがない。
いつも靄と湿気の漂う
硫黄臭い陰気な島だった。
犯罪組織『スコーピオン』の
秘密基地ともなれば
南海の楽園めいた雰囲気など
望むべくもないのは
当然のことだったが…
森を背にして
人気のない崖っぷちにたたずむ
ラウールの背後から
微かな足音がした。
ラウールは振り返らずとも
それが嗅ぎ慣れた
ロナルドの気配であることに
気付いていた。
タンクトップの男はのっそりと
木の陰から姿をあらわすと
ラウールと並んで
海を見下ろした。
ラウール:
……首尾は?
ロナルド:
まぁまぁだ。
金塊のありかはわかったし
レイナも穴掘りに参加している。
金塊を盗むだけなら
難しいことじゃねぇさ。
盗んだ後の脱出が問題だろうな。
…おめぇの方はどうなってんだ。
昔馴染みとは会えたのかい?
ラウール:
……ああ。
『スコーピオン』のボス…
リッキー=ロワイヤル。
奴がやはり…
俺の探していた男だったよ。
ロナルド:
じいやを撃った男か?
その問いにラウールは答えない。
ロナルドは口の端でキャンディをもてあそぶように
上下させて、再び口を開いた。
ロナルド:
……なぁラウール。
俺の知ってる限り
おめぇのフリッツP38は
一丁きりだと思っていたよ。
お前の名をかたり
じいやを撃ったリッキーって奴が
なぜフリッツP38を持っている?
海を見つめたまま
ラウールはやはり
何も言わなかった。
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