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『スコーピオン』の中心施設
通称『館』にラウールは
呼び出された。
装飾物のない無機質な室内には
組織の黒幕リッキーが
ゆったりとソファに腰掛けていて
ラウールはその対面に
座るよう促される。
リッキー:
やっとゆっくり話せるな。
…ラウール。
ラウール:
そろそろ
聞かせてくれるんだろうな?
俺をわざわざ呼び寄せた
本当の訳を…
ラウールは
正面に座った相手の真意を
推し量るように見つめながら
口を開いた。
むろん狡猾なこの男が
簡単にぼろを出すとは
思っていなかったが…
リッキーは口の端に
余裕の笑みを浮かべて答える。
リッキー:
最初から
俺の言っていることは本気だ。
もう一度お前と
手を組みたいんだよ。
ラウール:
犯罪組織のボスが
俺と組んで何をしたいってんだ?
リッキー:
フン。俺はな、ラウール。
好きでこんな島に
閉じこもっているわけじゃない。
世界政府公認の犯罪組織だ
と言ったって
結局は処刑するのも面倒な連中を
押し込めておくための
ていのいい監獄に過ぎない。
こんな所で金塊を
溜めこんでいるだけの生活に
飽きたんだよ。
リッキーは落ち窪んだ眼窩の奥で
瞳を光らせた。
薄暗い照明の中で
胸元に刻んだ毒蠍の刺青が
不気味に蠢くように見える。
リッキー:
ここから脱出したい。
そのためにラウール…
お前の手を借りたい。
ラウール:
『スコーピオン』は
どうするんだ?
椅子の肘掛に頬杖をつきながら
ラウールが問うと
知ったことかと
黒ずくめの男は吐き捨てた。
リッキー:
俺がいなきゃ
誰かがボスになるだろうさ。
俺は俺の財産を持って
この島からおさらば
したいだけなのさ。
ラウールは
大柄な身体をソファに沈めている
リッキーを見やる。
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