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そんな俺の顔が予想出来たのか、楓は前を向いたまま、声に出して笑った。
「見たかっ? これがあたしの実……力っ!」
俺にそう言いながら、飛んできたボールを力を込めて打つ。
それは、またホームランだった。
「勝てるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
バッティングの勝負が終わった瞬間、俺は楓にそう叫んでいた。
あの後、楓は50球全てをホームランにし、この店の最高新記録として残された。……そりゃあ、そうだわな。50球全てをホームランにすれば、嫌でも最高新記録にライクインするわ。
ちなみに、俺のバッティングで、ホームラン記録は32回。18球は空振りやホームランじゃない所に飛んだ。
楓の記録に及ばず、負けてしまったが、第二位の記録としてこの店に俺の記録は残された。
「だいたいなぁ! 50球全てをホームランにするなんて、見たことも聞いたこともないぞ!? あんたは超人かっ!」
「超人なんかじゃないよ」
バッティングセットを近くの係員に返すと、楓はにこやかな顔で俺を見て、続けてこう言ってきた。
「あたしは超人じゃない。ただの化物だよ」
「何だ? 超人よりも化物と呼ばれた方が好きなのか?」
そう聞くと、楓は一瞬、表情に翳りがさしたが、すぐに笑顔に戻った。
「……まぁ、しょっちゅう化物って呼ばれてたからねぇ。慣れちゃったのかも」
楓はくるりと俺に背を向けた。そして、首を回し腰を少し、回し、顔を俺に向けてきた。
「さて。次は何やろうっか?」
「……どれやっても、あんたには勝てない気がするのは俺の気のせいか?」
「多分、気のせいだよ~。あたしにだって、苦手なスポーツがあるんだから」
「信じがたいな」
それは本音だった。
バッティングでパーフェクトを出したのだ。相当な運動神経を持っているはず。そんな奴に、苦手なスポーツがあるはずがない。
「信じてよぉ~」
ぶぅ、と両頬を風船のように膨らます楓。その顔は、結構、可愛かった。
楓の言葉に、俺はボリボリと頭を掻いた。
「……まぁ、そう言うことにしてやるか。んで? 次は何やる?」
苦手なスポーツなどない。そう思ったが、これ以上、何か言って、楓が機嫌を悪くしたら困る(俺の秘密がバラされるかもしれないから)。
そう考えた俺は、楓の言葉をとりあいず信じることにした。
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