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けど、意外と簡単な条件だな。
俺は頷く。
「いいぞ」
「よしっ、じゃあ、教えてあげよう!」
そう言うと、桔梗は受け付け台から出て、すぐ近くの椅子に座る。
俺はその隣に座り、目の前の机に鞄から取り出した筆箱と教科書、ノートを取り出し、さっきの小テストの束も出した。
桔梗はその小テストの束を再び手に取り、じっくりと見た刹那、
「おろ? 冬真と風雅じゃん」
そんな声が横から聞こえた。
俺と桔梗は一斉にそちらを向いた。
そこには、厚い本を三冊持った黒い髪の少年がいた。
「お、大智」
こいつの名前は、椿大智(つばきだいち)。桔梗同様、同じ“秘密”を持つ親友だ。
優しく、誰にでも気を許してしまうお人好しのため、他人に騙されやすい奴だ。
「何してるの?」
「私の私による橘ちゃんのための勉強会」
大智の問いに答えたのは、俺ではなく桔梗だった。
「え? 勉強会? どうしたの? 冬真。頭おかしくなっちゃった?」
「……」
桔梗といい、こいつといい、俺が勉強してたら頭おかしくなっちゃったという認識か……。
俺は桔梗から小テストの束を取り、大智に見せた。途端、
「……成程ね」
納得した。
「小テストで合格点が取れなかったら追試とか言ってたけど……、冬真、追試なんだ……」
お気の毒に……という顔をする大智。
「それに合格するために、桔梗に教えてもらうんだよ」
ゴールデンウィーク全てが補習なんて、冗談じゃないからな。
「そりゃそうだよね。……。よし、僕も協力しよう」
「mjk(マジか、という略)! 助かる!」
大智の成績は、学年9位。勉強が出来るというのに違いはない。
大智は厚い本を机に置き、俺の隣の椅子に座った。
こうして、勉強出来る奴による、勉強出来ない奴に教える勉強会が始まった。
その日の夜
時刻は9時を回ったということを、時計を見て初めて知った。
勉強に集中していたせいで、時刻を忘れていた。
「ん~っ!」
大きく伸びをする。
パキパキと背中の骨が鳴る。
「結構、集中出来たな……」
俺は首をコキコキ言わせながら、ノートを取った。そして、パラパラと捲る。
ノート一冊分くらい使ったようだ。ここまで使えた自分の集中力が恐ろしい。
「もうひと頑張りすっか」
その前に休憩だな。
俺は立ち上がり、台所に向かい、冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルを取り出した。
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