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始まりは……あいつの一言だった。
「この秘密、バラされたくなかったら、あたしの下僕になってもらおうか?」
デジカメを片手に、そいつ、高品楓(たかしなかえで)は、悪魔のような笑みで俺を見ながら、そう聞いてきた。
……何で……こうなった……?
俺は高品に悪魔の笑みで見られながら、それまでのことを思い出していた……。
30分ほど前。
「花に水をやっといてくれ」
帰りのHRが終わり、俺こと橘冬真(たちばなとうま)は、俺が通う櫻田高校(さくらだこうこう)の俺が属する2年1組から出ていこうとした時、担任の西宮(にしみや)先生にそう言われた。
「おいおい、にっしーよぉ。そう言うのって、普通、学級委員の役割じゃね? 何で俺にやらすんだよー」
ぶー、とめんどくさいからやりたくない俺は、文句を垂らす。ちなみに“にっしー”とはこの先生のあだ名である。
「いや、お前はそんなことを言いつつやってくれるはずだ。それに、学級委員の真田(さなだ)は遠い親戚のお通夜で早く帰ったよ」
「……。お通夜じゃあ……仕方ねぇな」
お通夜と聞き、俺はにっしーの言った花の水やりをすることにした。
「おお! やってくれるか? お前なら、やってくれると信じていたぞ! じゃ、オレ会議だから」
そう言って、にっしーは緑色のジョウロを俺に渡し、急いで教室を出ていった。
ポツンと教室に残される俺。
教室には、すでに全員出ていったのか、俺しかいなかった。
この場所にたった一人しかいないのを見ると、世界は俺一人しかいないんじゃないかと思えたが、外のグラウンドから聞こえたボールを打つバットの音でそんな考えはぶっ飛んだ。
「さてと、やるか」
俺はジョウロを水一杯入れた。しかし、この近くには水道水が出る蛇口などない。じゃあ、どうやって入れたかと言うと、答えは簡単。
―俺が能力者だからだ―
俺は生まれつき、普通の人には備わってない能力があった。
それは、近くに水道水がなくても水を出せるという能力だった。しかも、こう能力、どれだけ使っても俺自身、脱水症状になることがない。
この町、美崎町(みさきちょう)の隣町に汐美原町(しおみはらちょう)という町があり、そこにも俺と同じような人間が住むと言うが、あまり興味はなかった。
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