[異世界です、お兄様]

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一般的にはアーサー王伝説に登場する聖剣は有名であるが、その鞘はアーサー王が遠征中に賊に盗まれてしまう。 それによって聖剣の片割れは離れ離れになるのだが、それでも王の目指すものはその身に深く刻まれていた。 アーサー王の目指したものは完全な理想郷。 人の身では届かず、理想の果てに見えてもたどり着けぬその地。 幸福であってほしいという純粋な願いの具現したその地の名は〈アヴァロン〉。 アーサー王が死後にたどり着くとされた桃源郷の名を冠する聖剣の片割れ。 それが、チヒロの持つ鞘の正体だ。 因みに、チヒロはかなり二次元に漬かって時期があったので、最強の盾を想像して真っ先に浮かんだのがゲームの武器と設定、能力だったというのは内緒だ。 「〈アヴァロン〉、これは持ち主の存在を異空間へと置くことで傷を付けられぬ絶対防御の能力。たとえ【理念】で攻撃しても、【理念】で構成された異空間には干渉できまい」 にやり、と得意げに笑うチヒロにアリーナは戦慄を禁じえなかった。 本来、【理念】とは世界に対して【理】を押し付けて無理やり顕現させるものである。 当然、押し付けるということは少なからず抵抗がかかるが、【理念】の前では大した問題ではない。 が、【理念】の支配するこの空間にもかかわらず、チヒロは平然と異空間を創り上げたのだ。同じ【理念】で作られたこの空間に更に空間を創る。それは、スコップで分厚い城壁に穴を開けるのと同じくらい滅茶苦茶なことなのだ。 (正直、予想以上のモンスターですね・・・彼は) 戦闘行為には余り向かないアリーナの能力であるが、武道派という観点では十分化け物染みている。 そんな彼女でさえ、チヒロには異形のモンスターに見えるのだ。 (もしかしたら、私はとんでもない物を目覚めさせてしまったのかも知れませんね) アリーナは若い『世界の守護者』に大きな期待感と、わずかな戦慄を覚えながら声をかけた。 「さあ、後は自分自身で切り開いて下さい。あなたの、道を・・・」
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