[幕開けです、お兄様]

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アリーナという少女に連れられてたどり着いたのはしっかりとした作りの応接室だった。 応接室、といってもチヒロが最初に抱いた印象は小学生の時に入った校長室というものだが。 何ともいえない紙とインクの匂い、雰囲気から醸される静かな緊張感、それでありながらリラックスできそうなフカフカなソファー。そして 「あ、今お茶を入れるのでソファーでお待ちくださいー」 「あ、どうも」 そういって給湯室へ消えていった。チヒロは取り合えずすわり心地の良さそうなソファーへと腰掛ける。 すると・・・ なんということでしょう。まるでここが校長室のように息苦しい雰囲気が、ソファーを手がけた匠の手によってまるで自室のような状態に 「なるわけも無し」 そう一人で脳内ビフォーアフターを繰り広げるチヒロ。傍から見れば変人そのものだ。 さて、チヒロがソファーに付いたことで心に余裕ができたので彼について説明しよう。 柳チヒロ。それが彼の名前だ。 本人は気にしていないが「チヒロ」という名前が女みたいと言うのは彼の友人の評価であるが、れっきとした男である。 今年で成人となった彼は現在、理系の私立の大学へ通い日々を研究に費やして過ごしてきた。 その為なのだろうか、彼は独り言が極端に多くなることがある。 これはたった一人、地味な作業を朝から晩まで、それを毎日繰り返していくうちに癖となってしまったのだ。 誰もいない個室の中で会話相手は望めず、独立した研究を行う彼ゆえに隔離されていたのだ。 その寂しさ、孤独を紛らわせる為に彼が取った行動。 それがブツブツと脳内会話を繰り広げる事だったのだ。それが現実へ声となるのに時間はかからなかった。 結果、彼は一人きりになると反射的に独り言を開始する。 その内容は大抵彼の脳内での妄想に対して理性的に声を出して擬似会話を成り立たせるというとても奇怪なものである
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