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もし今願いが叶うなら、アナタに好きなだけ甲虫飼育をさせてあげたい。
大好きな事に打ち込む時間を大切にさせてあげたい。
今は届かない思いだけれど、心からそう思った。
ケースの中のカブトムシに、ポツリポツリと涙が落ちた。
『子供のように、無邪気に虫を触ってるアナタの笑顔が、本当は大好きだったよ……』
私はカブトムシに語りかけた。
このカブトムシは、アナタが姿を変えて帰ってきた、《アナタ》自身なのだと信じたかったから。
裏庭の楓から、ヒグラシの、「カナカナカナ」と言う声が寂しく響いていた。
去りゆく一日と去った人を惜しむかのように、切なく鳴いていた。夜の帳がすべてをつつむまで………。
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