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「なに人の顔をじろじろ見てやがる。」
写真と同じ顔という事で、思わず凝視してしまっていたようだ。
見られていた本人は眉間に皺を寄せ、物凄い目付きでこちらを睨んでいる。
まぁ、じろじろ見られるのは気分がいいものではないが、そんなに睨まなくても…。
この人目線だけで人殺せそうだな。
とりあえず副長とやらの正面に正座で座る。
永倉さんと藤堂さんは、私から見て左側に二人揃って座っていた。
「永倉達に聞いた話では、鴨川に倒れていたようだが…、お前何者だ。」
何者だ…、と言われても。
答えようがないんだが…。
なんと答えてよいかわからず黙っていると、更に質問を投げかけられる。
「お前の着物を見ている限り、少なくとも京のもんではないよな。そんな格好は江戸や大阪でも見た事がねぇ。お前…まさか異人か?」
異人?外国人の事だよな?
「いや、日本人です。何者だと言われても答えようがありません。」
「………名は?」
「神柳雪。」
「雪~?女子みたいな名前だね。」
黙って座っていた藤堂さんが横やりを入れてくる。
…女みたいな名前って…、女なんだが。
まさかこの人達には男だと思われているのか?
昔からよく男に間違われていたけど、やっぱり少し傷付くな…。
でも…、ここがどこかわからない以上、男と勘違いされていた方が好都合か。
それよりも、先程から気になっていた事を確かめておきたい。
「一つ質問してもいいですか?」
「あっ?なんだよ。」
「今が何年何月なのか教えて頂きたいんですが。」
質問にたいし、訝しんだ目付きで見られる。
日付もわからないと言ってるんじゃ、当然の反応だろう。
だけど、今の私にとっては何よりも大切な情報だ。
答えて欲しいという気持ちと、言わないで欲しいという気持ちが交差するなか、あっさりと返答はかえってきた。
「お前何言ってるんだ?今は文久三年の十月九日だろう。」
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