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文久三年。
一八六三年。
目の前の男に嘘をついている様子はない。
むしろ、私の事を不審者を見るような目付きで睨んでいる。
…着物に刀、そして目の前の男の顔に年号…。
薄々気付いてはいたけれど、幕末にタイムスリップしてしまったみたいだ。
こんな事、漫画のなかだけの…夢物語だと思っていたんだけどな……。
とりあえず帰る場所はなくなったし、住む場所を確保しなければ…。
あぁ、職も探さないと。
この時代のお金はどうなっているのか。
この異常な状況にも取り乱さず、これからどうするのかを考えながら落ち着いている自分に気付き溜息が出てしまう。
まあ、仕方ないか。
原因はわからないが来てしまったものは仕方ない。
戻り方もわからないし、戻ったところで大切なものは何もない。
ひとつ気掛かりがあるとすれば、家のお墓だけだな。
あの子のお墓に誰か花をそえてくれるだろうか。
綺麗に掃除してくれるだろうか。
……心配ないか。
きっと麻奈がきちんとしてくれる。
私はただ、生きる世界が変わるだけ。
ただ、それだけの事。
「おい、考え事はもういいか。」
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