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「俊輔、俊輔」
「……──何、馨くん?」
授業と授業の休み時間に寝ていたところを、右隣の席の井上馨に叩き起こされた俊輔こと、伊藤博文は気だるそうに顔をあげ、井上馨を見る。
「──大村先生が持っちょる将棋盤の意味、知っちょるか?」
「……──どうでもいいよ。お休み」
伊藤博文は軽く、井上馨をあしらうと再び顔を机に埋めて寝始めた。
「ちょい待て! 俊輔、ここは食いつくとこじゃろうが!」
「……土日、木戸さんや高杉さんについて色んな場所を強行軍的な速さで回って疲れてんの。寝かせてよ」
「そうは問屋が卸さんけぇの!」
どうしても寝ようとする伊藤博文を井上馨は、寝かせまいと伊藤博文の身体をユサユサと揺らす。
流石にここまで邪魔をされては、まともに寝ることが出来ないと伊藤博文は悟り、渋々、井上馨の話に乗ることにした。
「……──何で大村先生は将棋盤をいつも持たれているんでしょうか? 教えて下さい、博識な井上馨さん」
感情のこもっていない棒読みで訊く、伊藤博文。
「それはの、俊輔」
伊藤博文から反応が返ってきて気分を良くする井上馨。
「上野で彰義隊を破ったとこからじゃ」
得意気に井上馨はしゃべった。
「……──じゃ、お休み」
井上馨の答えを聞くと、再び伊藤博文は机に伏して寝た。
「ちょっ! 俊輔! もっと面白い反応をせい! 寝るな!」
伊藤博文が井上馨の期待していた反応をしなかった為、井上馨は再び伊藤博文の身体を揺らして睡眠の邪魔を始めた。
──その日、伊藤博文は井上馨から逃れるように、仮病を使い保健室に逃げ込んだ。
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