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真上から容赦なく降り注ぐ直射日光。
みんみんしゅわしゅわ、賑やかに鳴き喚く蝉達の声。
見上げれば雲1つない、どこまでも続くような深い青空――
「…………あー、夏だねぇ~……」
そんな妙に爺臭いセリフが、汗と一緒に陽炎で揺らめくアスファルトへと零れ落ちた。
こんな暑い日には冷房の効いた部屋で、アイスなりなんなりを食べていた方が賢明だとは思う。
しかし俺は今、愛車である青色の自転車を押しながら、汗だくで長い長い坂道をひいひい言いながら登っていた。
道の先は陽炎で見えず、実はこのままこの道には果てがないのではないかと錯覚しそうになる。
そんなそろそろ頭も朦朧とし始めてきた俺の隣りを、家族連れらしき1団を乗せた車が、颯爽と走り去っていった。
子供が笑いながら俺に手を振ってきたが返す気力なんて……って、何で俺の右手はゆらゆらと揺れているんだ?
自転車に乗れば多少は速くなるかと思うが、こんな地味にキツい坂道でペダルをキコキコ漕ぎ続ける自信なんてある訳ない。
途中で力尽きて、干物になって晒し者になるのがオチだ。
「もう少し……もう少し、だ……」
もはやかれこれ20分以上前から繰り返している魔法の呪文(ごまかしの言葉)を口にする。
その甲斐あってか、何とか灼熱地獄の坂道を突破する事が出来た。
ざぁぁぁ――
風が、俺の汗でベタついた身体を吹き抜ける感覚が気持ちいい。
坂道を上がり終えたそこには真っ白の建物――病院が建っていた。
そこが俺の……目的地だ。
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