01―始まりの終わり―01

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青年の瞳が月光に輝く牙を捉える。 それが捕食のモーションである事を青年は身をもって知っていた。 金属のように硬い銀色の皮膚に覆われたそいつは、初めに爬虫類を思わせる赤い瞳で捕食対象に狙いを定める。 それから、鉄をも容易に噛み砕く牙を備えた口を大きく開ける。 あとは二本の筋肉質な脚で、コンクリートを凹ませる程の力をもってして地面を蹴るだけ。 二秒にも満たないその三種のモーションに捕食対象が気付いた時。 それはすなわち、死の領域に足を踏みいれていることを表す。 青年はそいつの一度目の捕食行動で左腕を失っていた。 そして、これが二度目の捕食行動。 「ぐ…」 なんとか体を動かそうとするも、口からくぐもった声が漏れるのみ。 大量の出血により既に意識が朦朧としている青年には、一度目のように体を捩ることすら出来なかった。 そしてコンクリートの破砕音が闇夜に響き、牙が青年に迫る。 その後はほんの一瞬の出来事。 裂ける肉、砕ける骨。 体内から臓器が引きずり出される。 いとも容易く、青年の右脇腹と内臓は消え去った。 「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」 急激に生命力の抜けていく青年の鼓膜を女性の悲鳴が揺らす。命をかけても守りたかった……必ず守ると約束した、最も愛する女性の声。 しかし、崩れる体を支える力も、後ろの彼女に視線をやる力さえも青年には残っていない。 重力に引かれるままに倒れる青年の体。 ぼやけた視界に朧げな月が映る。 たまたま上方に投げ出された右腕の、小さな金の装飾がついたブレスレットが視界の端へと消えていく。 その直後、視界を赤色が支配した。 今まで見た事が無いような、紅の空。 それが、青年の意識が捉えた最後の光景だった。
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