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青年の瞳が月光に輝く牙を捉える。
それが捕食のモーションである事を青年は身をもって知っていた。
金属のように硬い銀色の皮膚に覆われたそいつは、初めに爬虫類を思わせる赤い瞳で捕食対象に狙いを定める。
それから、鉄をも容易に噛み砕く牙を備えた口を大きく開ける。
あとは二本の筋肉質な脚で、コンクリートを凹ませる程の力をもってして地面を蹴るだけ。
二秒にも満たないその三種のモーションに捕食対象が気付いた時。
それはすなわち、死の領域に足を踏みいれていることを表す。
青年はそいつの一度目の捕食行動で左腕を失っていた。
そして、これが二度目の捕食行動。
「ぐ…」
なんとか体を動かそうとするも、口からくぐもった声が漏れるのみ。
大量の出血により既に意識が朦朧としている青年には、一度目のように体を捩ることすら出来なかった。
そしてコンクリートの破砕音が闇夜に響き、牙が青年に迫る。
その後はほんの一瞬の出来事。
裂ける肉、砕ける骨。
体内から臓器が引きずり出される。
いとも容易く、青年の右脇腹と内臓は消え去った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
急激に生命力の抜けていく青年の鼓膜を女性の悲鳴が揺らす。命をかけても守りたかった……必ず守ると約束した、最も愛する女性の声。
しかし、崩れる体を支える力も、後ろの彼女に視線をやる力さえも青年には残っていない。
重力に引かれるままに倒れる青年の体。
ぼやけた視界に朧げな月が映る。
たまたま上方に投げ出された右腕の、小さな金の装飾がついたブレスレットが視界の端へと消えていく。
その直後、視界を赤色が支配した。
今まで見た事が無いような、紅の空。
それが、青年の意識が捉えた最後の光景だった。
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