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「竹下さんも大変だよな……」
支部内のクリーニング営業を一手に引き受ける超巨大クリーニング店『竹下サイクロン』の店長である竹下さんの苦労に思いを馳せながら服を脱ぐ。
そして何気なく洗面所の鏡に目をやる。
右手のブレスレットの金の装飾が微かに光った。
香穂のものと何一つ違う所の無いこのブレスレットを、新人類として目覚めて以来優也は一度も外した事がない。
ペアルックなのだから、当然周りは優也と香穂の恋仲をはやしたてた。
しかしそれは、優也にとっても香穂にとっても反応に困るものだった。
何故なら…
「知らねーもんな……二人共」
…そう。
二人共記憶がないのだ。
というか、新人類全員が、新人類になる前の記憶はない。
彼らが新人類として瞳を開けた時。
彼らには、新人類として人類を守るという使命のみが与えられている。
「……くそったれ」
優也達は以前の自分の事を何も知らない。
そしてこれからも、知る事はないだろう。
仮に優也と香穂が過去に恋仲にあったとしても。
過去を知る手段など、ないのだから。
「藤宮……香穂……」
名前を口にしても何も解らない。
ただ空しさが募るだけ。
そして明日からも、日々は続いて行く。
散るまで守り続ける日々が。
自分の存在すらも、朧気なまま……
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