5

3/10
前へ
/487ページ
次へ
駅に着くと、綾の姿をみつけた。 ベンチに座ってうずくまっていた。 「江崎っ!」 翔平が駆け寄ると、綾は目をこすり立とうとしたが― グラリ 倒れこむ綾に翔平は抱き抱えた。 「おまえ、無理すんなよ」 「だって…、しょ…明治くんは私と仲良くしないって…」 グスッと鼻をすする音が聞こえる。 「病人を放っておくほど、俺は鬼じゃない」 その言葉に安心したのか、綾は青白い顔で笑った。 「よかった」 胸に体重がかかる。翔平は綾の意識が途絶えたのに気付いた。 「…とりあえず、家に連れていくか」 翔平は母に電話をかけた。 ―――― 綾が目を覚ますと、そこは翔平の部屋だった。 ベッドの脇で、翔平は「町長選挙」を読んでいた。奥田英朗の本だと一目でわかった。 「あ、翔平…」 パタンッと、本を閉じる音が聞こえる。 「平気か?」 心配そうな声に、綾はまた涙が溢れた。 「どうした、どこか痛むのか?」 仏頂面の翔平が、おろおろとしている。 綾は首を振った。 「やばい、俺、涙腺弱くなってる」 「前からだろ、リョウは」 「そんなわけ…」 綾は、翔平の笑みに気付いた。
/487ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5119人が本棚に入れています
本棚に追加