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さて、実は今――僕は困っている。
何故かというと、
「…僕のクラスが分かりません」
久々に意識して呟いてみた。
しかし、そんなことで状況が打破できる訳でもなく、何の意味も無い訳で――…
「まぁ、何とかなるか」
諦める。
きっと、誰かが迎えに来てくれるはず。
先生には、道に迷ってました。とか、適当に言っておこう。
2年にもなって、校舎内で迷う奴がいたらビックリだけど。
敢えて僕はビックリ人間になってやろうではないか。
「聞いちゃいました」
……ん?
さっきのは、僕ではない。
高めの声は女の子のものだろう。
背後を振り返る。
「はじめまして、千川君」
友好的な笑顔を浮かべた女生徒がひとり。
腰までの長さの茶髪に、クリクリと大きな茶色い瞳。
スタイル抜群の女生徒が姿勢よく立って、こちらを見ていた。
結構な美少女なのかもしれないが、妹で慣れている僕は、特にそれ以外何も思わない。
ところで誰だろう?何故、僕の名前を知ってるんだろう?
「あ、ごめんなさい。同じクラスの佐野 竜胆(さの りんどう)と申します」
丁寧に頭を下げる女生徒、佐野さん。佐野 竜胆さん。
……多分、覚えた。
自信無いけど。
「え、あの、覚えて欲しいな…」
しまった。口に出てたか…。全く。
「努力するよ、阿野(あの)さん」
「えっ?さ、佐野だよ?」
「……ちょっとしたジョークさ」
苦しい言い訳だ。
ヤバイ。ヤバイぞ…。
只でさえ同じクラスなのに――…ん?
「同じ、クラス?」
「うん。同じ2年3組」
………助かった。
「君は救世主だ、阿野さん」
「あの、だから佐野だよ?」
「………今のもジョークだよ」
無理があるな。
1回なら兎も角、2回目は――
「そっかぁ。ごめんなさい、私、ジョークとかよく分からなくて…」
いい人だ。
この世の中に珍しく、いい人だ。
否、こういうのを天然というのか?
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