176人が本棚に入れています
本棚に追加
トウリはむすっと顔をしかめ、シュンゲンを見た。
「言っておくが、俺も働こうと思えば働けるぞ。ただ、それよりも身を鍛えろと言うから、毎日山に行っているだけで……」
「良い良い。心配せんでも、お前はそれで良いのだ。それが正しい。お前はしっかりと物事を理解しておるからな。おかげで儂は安心していられる」
「はっはっは」と笑うシュンゲンにトウリはやや息をつく。
畳部屋の仕切りとなっている襖(ふすま)と障子、格子戸は開ききってあった。故に、縁側の方に座るシュンゲンの後ろには桃花の吹雪が広がる。
「儂はお前達を誇りに思うよ。血は繋がってなくとも、お前達は儂らの子供だ。ふむ、まあこんな事を都で口に出せば首をとばされてしまうがな」
箸をまた持ち、シュンゲンは沢庵(たくあん)を口に放り込んだ。
トウリはシュンゲンを越し、庭の桃の木を見つめる。
「実感はないがな。俺が皇族の末裔とは」
“皇族の末裔”。
シュンゲンはやや眉を寄せた。
「いや、正真正銘お前は桃花の都の皇族の末裔。あの時の事は覚えておるよ。六年前、この川を流れてお前は来た」
.
最初のコメントを投稿しよう!