第一ノ巻*その男 桃花の如く

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 トウリはむすっと顔をしかめ、シュンゲンを見た。 「言っておくが、俺も働こうと思えば働けるぞ。ただ、それよりも身を鍛えろと言うから、毎日山に行っているだけで……」 「良い良い。心配せんでも、お前はそれで良いのだ。それが正しい。お前はしっかりと物事を理解しておるからな。おかげで儂は安心していられる」  「はっはっは」と笑うシュンゲンにトウリはやや息をつく。  畳部屋の仕切りとなっている襖(ふすま)と障子、格子戸は開ききってあった。故に、縁側の方に座るシュンゲンの後ろには桃花の吹雪が広がる。 「儂はお前達を誇りに思うよ。血は繋がってなくとも、お前達は儂らの子供だ。ふむ、まあこんな事を都で口に出せば首をとばされてしまうがな」  箸をまた持ち、シュンゲンは沢庵(たくあん)を口に放り込んだ。  トウリはシュンゲンを越し、庭の桃の木を見つめる。 「実感はないがな。俺が皇族の末裔とは」  “皇族の末裔”。  シュンゲンはやや眉を寄せた。 「いや、正真正銘お前は桃花の都の皇族の末裔。あの時の事は覚えておるよ。六年前、この川を流れてお前は来た」 .
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