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それは突然だった──。
シュンゲンの妻であるミナトが川で洗濯をしていた所、下流からさかのぼって来る小さな舟が見えたではないか。
元々、川幅もほどほど広く、中央は底が濁って見えるほど深いこの陵嘉の川(りょうかのかわ)。
小振りな木製の舟には人が見るかぎり六人。一人は長い棒を使って水底を蹴り、舟を動かしていた。
加えて、六人のうちの三人はまだ子供。
しかし、驚いたのはその舟の先端に付けられた家紋。それは誰もが見た事のある“桃花の紋”。
このジンの国を治める皇族の中の一つ、芳園家のものだった。
ミナトは喫驚し、急いでシュンゲンを呼びに行った。
舟はやはりこの泉条家の前に止まった。泉条家は都から離れた山奥の家。シュンゲンとミナトが余命を静かに暮らしたいとして移り住んだのだ。
こんな所に他の家などありやしない。恐らく、戸籍を辿ってここまで意図的に来たのだろう。
その意図は、一体何ぞ。
山に芝刈りに行っていたシュンゲンは急いで舟の元へと向かった。
降りてきたのは比較的高貴な服装の男が三人と、子供が三人。
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