第一ノ巻*その男 桃花の如く

12/18
前へ
/153ページ
次へ
 しかし、六人全員が真っ赤な血をどこかしらに浴びていた。  黒い髪の男三人はかすり傷程度とは言え、生々しい血を今も滴らせている。  ミナトは飛び上がって挨拶も忘れ、家へと招き入れた。  子供三人は黙り込んだまま何も喋らない。 『我々は桃花の都の者。芳園家に仕えし者なり。ここは春厳殿の家でしょうか?』 『その通りでございます。貴方様方は一体何用でこのような貧相な山奥へ? 都で何があられたのでしょうか?』 『春厳殿、貴方様は元より都の役人だったそうな? 今もなお、名前は轟いております。そこで、折り入って頼みがございます』  桃の花が咲き乱れるこの家に、都の者の声は静かに震えた。 『我が主である芳園 剱黎(けんれい)様と芳園 理圃(りほ)様が──鬼に食われました』  シュンゲンはただただ目を見開くばかり。皇族である芳園家の当主とその妻が“鬼”に食われた。 『ばッ、ばかな……っ! 鬼は桃花の都に封印されていた筈では!』 『先日、屋敷に盗人が入ったようで。その際に、鬼の封印の要となっていた刀を盗人が動かしてしまったのです。それで封印は破れ……』 .
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

176人が本棚に入れています
本棚に追加