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シュンゲンはやわらかく笑った。
『この国は花が閉じる事はないのう。うちの桃花も年中満開じゃ。大変、美しい』
『……あんた』
『どうだい? もう一本、桃を育てるのも良いと思わぬか? 事この桃花の都に限って、咲かぬ桃花などありはせん。その花、咲かせてみせようではないか。なあ?』
シュンゲンは目尻を赤く腫れさせているトウリに微笑んだ。
上手い事を言うとは別に、皇族を花に掛けるとはなんと失礼な事。
しかし、男達の表情は明るくなった。ミナトも仕方なさそうに、それでいて優しそうに微笑む。
『あらあら、これからは食事は倍ねえ。それでも足りないかしら?』
『大丈夫。万年、うちの野菜は豊作だからな。家も二人では丁度寂しいと感じておったところじゃ』
『春厳殿! それでは……!』
春厳は返事の代わりに歌った。
『透(す)き川に 流るる桃の子 手のひらに まだ見ぬ花を 待つものかは』
陵嘉の川に流れてきた桃の子(たね)を手に入れた。まだ見ていない花を待つものであろうか。いや、待ちはしない。
咲かせてみせようではないか。
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