第一ノ巻*その男 桃花の如く

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 シュンゲンはやわらかく笑った。 『この国は花が閉じる事はないのう。うちの桃花も年中満開じゃ。大変、美しい』 『……あんた』 『どうだい? もう一本、桃を育てるのも良いと思わぬか? 事この桃花の都に限って、咲かぬ桃花などありはせん。その花、咲かせてみせようではないか。なあ?』  シュンゲンは目尻を赤く腫れさせているトウリに微笑んだ。  上手い事を言うとは別に、皇族を花に掛けるとはなんと失礼な事。  しかし、男達の表情は明るくなった。ミナトも仕方なさそうに、それでいて優しそうに微笑む。 『あらあら、これからは食事は倍ねえ。それでも足りないかしら?』 『大丈夫。万年、うちの野菜は豊作だからな。家も二人では丁度寂しいと感じておったところじゃ』 『春厳殿! それでは……!』  春厳は返事の代わりに歌った。 『透(す)き川に 流るる桃の子 手のひらに まだ見ぬ花を 待つものかは』  陵嘉の川に流れてきた桃の子(たね)を手に入れた。まだ見ていない花を待つものであろうか。いや、待ちはしない。  咲かせてみせようではないか。 .
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