第一ノ巻*その男 桃花の如く

18/18
前へ
/153ページ
次へ
 しかし、それは殺那だった為にトウリとエンジは気付かない。直ぐにアオイはやわらかく笑った。 「承知しました。若、もう御食事はよろしいのですか?」  そう問われ、トウリはほぼ空になった茶碗や皿を見る。 「ん? んー、そうだな、御馳走様。それにしても、バア達帰って来ないな」  ふと思い出したかのようにトウリは眉を少し動かした。 「捜しに行きますか?」  そう尋ねたエンジは眉をやや寄せ、腰をやや浮かせる。トウリも着物の袖を合わせ、腕を組みながら立ち上がった。 「そうだね。取り敢えず、もう少し経っても来なかったら行こうかい」  やや遠目に庭を眺めるトウリを片膝を付きながら見上げるエンジ。 「御供は?」 「いらないと言ったら怒るだろう? なら、お前に頼むよ」 「御意」  トウリはそのままゆっくりと歩いて縁側に出る。しかし、足はそこで止めてふとアオイに目を向けた。 「そうだ、水差しに桃花の付いた枝が差してあるからよ。後で生けといてくれないかい?」  一瞬きょとんとなるアオイ。しかし、直ぐに小さく頷いた。 「御意」 .
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

176人が本棚に入れています
本棚に追加