176人が本棚に入れています
本棚に追加
トウリと呼ばれた男の子は、部が悪くなったと言わんばかりにむすっと眉をひそめた。女の子は気にせず言葉を続ける。
「言わせて頂きますと、若は口を閉じて笑ってさえくだされば誰も文句は言いませんよ。外見は程々なんですから」
「ほーう。遠回しに悪口を言うったあ、なかなかいい度胸じゃねぇか、葵」
トウリは左腕だけ袖を通し、右腕は着物の中に置いた。
アオイと呼ばれた女の子──雉 葵(きぎす あおい)は何食わぬ顔で首を少しだけ傾ける。
「滅相もございません。側近たる者、主(あるじ)の悪口など口が裂けても申せませんよ。例え、目付きが非常に悪くとも、お口が非常に悪くとも」
「相変わらず正直者だねえ。だからお前は好きだよ」
トウリは悪戯に笑ってアオイの頭に手を置く。
明らかな告白の言葉。
しかし、
「側近で遊ぶのもほどほどにお願いしますよ」
まるで慣れたようにアオイは上手く流す。そんな彼女に、トウリはまたもむすっと顔をしかめた。
そして、背後から首にやんわりと抱き付く。
「気に食わん。俺はいたって真面目だぞ。いい加減受け止めてくれないかい? 葵は美人だから早めに予約しとかねぇとなあ」
.
最初のコメントを投稿しよう!