第一ノ巻*その男 桃花の如く

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 トウリと呼ばれた男の子は、部が悪くなったと言わんばかりにむすっと眉をひそめた。女の子は気にせず言葉を続ける。 「言わせて頂きますと、若は口を閉じて笑ってさえくだされば誰も文句は言いませんよ。外見は程々なんですから」 「ほーう。遠回しに悪口を言うったあ、なかなかいい度胸じゃねぇか、葵」  トウリは左腕だけ袖を通し、右腕は着物の中に置いた。  アオイと呼ばれた女の子──雉 葵(きぎす あおい)は何食わぬ顔で首を少しだけ傾ける。 「滅相もございません。側近たる者、主(あるじ)の悪口など口が裂けても申せませんよ。例え、目付きが非常に悪くとも、お口が非常に悪くとも」 「相変わらず正直者だねえ。だからお前は好きだよ」  トウリは悪戯に笑ってアオイの頭に手を置く。  明らかな告白の言葉。  しかし、 「側近で遊ぶのもほどほどにお願いしますよ」  まるで慣れたようにアオイは上手く流す。そんな彼女に、トウリはまたもむすっと顔をしかめた。  そして、背後から首にやんわりと抱き付く。 「気に食わん。俺はいたって真面目だぞ。いい加減受け止めてくれないかい? 葵は美人だから早めに予約しとかねぇとなあ」 .
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