第一ノ巻*その男 桃花の如く

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 やや体重をかけてくる主人に、アオイは“またか”と小さく息をついた。 「若、いいから帰りますよ」 「本当、つれないねえ」  じゃれ合う二人の周りには鮮やかに咲き誇る桃花の群集。花びらは絶えずして花吹雪となっていた。  桃花の山を下り、トウリ達は川沿いにあるやや古めの小振りな屋敷にやって来た。周りには他の家など一切ない。  トウリとアオイは古びた門をくぐり、家の敷地内に入って行く。  庭には満開の桃の花。それ以外は何も飾り気の無い古びた家。  すると、その桃の木から笑い声が聞こえた。 「やーっと帰ってきた。全く、若もほどほどにしないと葵に嫌われますぜ?」  その声にトウリとアオイはふと大きな桃の木を見上げる。  そこには、茶髪の男の子が太い枝の上で器用にあぐらをかいていた。  正面から見れば短髪だが、異様に長い襟足を一つに結んでいる。  背と両肩が露となっている黒い服と、白い袴が何とも似合う。  アオイは不服そうに木の上の男の子を眺めた。 「焔士、見てたのなら声くらいかけてくれる? 若の御戯れを止めるのは大変なんだから」 .
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