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やや体重をかけてくる主人に、アオイは“またか”と小さく息をついた。
「若、いいから帰りますよ」
「本当、つれないねえ」
じゃれ合う二人の周りには鮮やかに咲き誇る桃花の群集。花びらは絶えずして花吹雪となっていた。
桃花の山を下り、トウリ達は川沿いにあるやや古めの小振りな屋敷にやって来た。周りには他の家など一切ない。
トウリとアオイは古びた門をくぐり、家の敷地内に入って行く。
庭には満開の桃の花。それ以外は何も飾り気の無い古びた家。
すると、その桃の木から笑い声が聞こえた。
「やーっと帰ってきた。全く、若もほどほどにしないと葵に嫌われますぜ?」
その声にトウリとアオイはふと大きな桃の木を見上げる。
そこには、茶髪の男の子が太い枝の上で器用にあぐらをかいていた。
正面から見れば短髪だが、異様に長い襟足を一つに結んでいる。
背と両肩が露となっている黒い服と、白い袴が何とも似合う。
アオイは不服そうに木の上の男の子を眺めた。
「焔士、見てたのなら声くらいかけてくれる? 若の御戯れを止めるのは大変なんだから」
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