第一ノ巻*その男 桃花の如く

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 アオイはため息をつきながら一人家へと入ってしまった。  エンジと呼ばれる男の子──申 焔士(しん えんじ)はけらけらと笑い、軽やかに飛び降りる。 「透理様ー、もう何回目ですか? 振られたの」 「何回だろうねえ。取り敢えずは両手では数えきれんな。まあ、今はいいんだ。葵も本気だとは思ってないだろうしな」  トウリは辺りに舞い散る桃の花びらを器用に掴んだ。それを見てエンジは感嘆する。 「相変わらず器用ですねー。普通、そんな簡単に掴めないですぜ?」  「ん?」と言ってこちらに振り向く彼は何だか異様に気品に見える。  まるで、桃の花びらがトウリを際立たせているかのよう。  しかし、それは見間違いでもなんでもない事をエンジは否、アオイも、そもそもこの古びた家に住む人間は知っていた。  勿論、トウリ本人も。 「桃は俺の花だからな、自ら来てくれるんだろうよ」 「また上手いお言葉を。でも、透理様のトウは桃の字じゃないっすよね?」  本名、芳園 透理(ほうえん とうり)のトウは「透」の文字。 .
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