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目付きは確かに悪いが、決して睨んでいるようには見えないのがトウリの不思議な所。
「後で葵に生けてもらおう。俺は桃花を見ながらあの家の畳に寝転ぶのが好きなんだ」
それを聞き、エンジは表情を明るくさせた。
「承知。暫し、お待ちを」
そう言ってエンジは足に力を込め、良過ぎるほどの脚力で人二人分の高さはある枝に向かって跳んだ。
一つに結んである茶色い襟足が風になびく。
そして枝に片手でぶら下がり、ほど良い小振りの枝を折って軽やかに飛び降りた。
さながらそれは猿のよう。
「どうぞ」
「済まんな」
膝をつき、エンジは桃花がついた枝を主に捧げた。
トウリは微笑みながらそれを受け取り、肩に担ぐ。
「さあ、葵に怒られる前に戻ろうかい。ジイ達も待っているだろうし、鼓雅(こが)が作った飯も冷めちまう」
「あ、湊様と犬っころなら山の方に行きましたよ?」
思い出したと言わんばかりに声をあげたエンジにトウリはきょとんとなった。
「山? 何か用事か?」
「はい。なんか帯がなくなったとかで、干してた時に風に飛ばされたんじゃないか、って」
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