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トウリはおもむろにため息をついた。
「捜しに行ったのかい。全く、帯の一つや二つ。まあ、鼓雅がついているなら心配ないな」
ふと、今さっきまで自分がいたであろう山の方に目を向けると、トウリはゆっくりと家の方に足を動かした。
エンジはその後ろをついて行く。
古びた家の入り口の柱には「泉条」と彫ってあるが、既に削れてあまり定かではない。
「ジイ、バアは山に行ったと聞いたんだが?」
家の中に入り、比較的広い畳部屋に来ると、食卓となっている背丈の低い長机の前であぐらをかいている初老の男がいた。
ボサボサな黒混じりの中途半端な長さの白髪を一つに結っている。
この人こそが、この家の大黒柱である泉条 春厳(せんじょう しゅんげん)。
トウリはこの男をジイと呼んでいる。
シュンゲンはトウリを見てにっと笑った。
「お帰り。コガがついていったから大丈夫さ。ささ、アオが今箸を持って来てくれてるから着きなさい。ほら、エンも」
明るいシュンゲンにトウリもつられるようにして笑った。
エンジはそれを一歩下がって見守る。
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