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「バブーッ! バブーッ!」
イクラは悲哀の情を口にする。
泣くという行動が生まれもって備わっていないのである。
そんなこともおかまいなしにたえこは部屋のそうじをしていた。
実際、イクラが部屋にいるだけであっという間におもちゃ箱はひっくりかえされて部屋中に散乱するありさまだったため、そうじをしようにもそれもままならない。
イクラは8歳になる重度の知的障害者だった。
それに自閉症がくわわり言語の発達はおろか、排便すら満足におこなうことができず、それゆえに8歳になったいまでもオムツを下着代わりにはいていた。
「バブーッ! バブーッ! あーっ! あーっ! あーっ! あーっ!」
イクラはベランダで奇声を発してたえこの注意をひこうとしたが、それもままならずたえこはそうじ機を部屋にかけている。
外はもうすぐ春が訪れるであろうが、いまもなお冷たい風が吹いている。
部屋の中では暖かな日差しであるのにもかかわらずである。
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