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当然テーブルの上にエサを置くということはできない。
重度の知的障害者であるイクラはテーブルの上にエサを置くとそれを落としてしまうのである。
したがって、必然的に床にプラスチックの皿を置いての食事となる。
もちろんビニール製のよだれかけをしておかないと服がエサでぐしゃぐしゃになってしまう。
それでなくとも毎日のイクラのエサで床が汚れてしまうのが常であった。
たえこの夕飯はのりすけが帰宅した後にのりすけと共に取る。
椅子に座り、テーブルに食べ物を置き、夫婦のだんらんを味わうのである。
その際、イクラはベランダへと放り出される。
それは以前、のりすけと共に夕食を楽しんでいた際、イクラを部屋の中へと入れたばっかりに、せっかく作った夕食をイクラがテーブルの上から床へと散らかしてしまったからだった。
その時のたえこの怒りかたは母親という枠を超えていた。
なんども、なんどもイクラを張りたおして、最後は浴室へと連れていき、イクラを水風呂の中へと閉じこめたものだった。
しかし、のりすけがあわてて憤激するたえこを止めてなんとか事はおさまった。
「あんまりやりすぎると児童相談所がうるさいからな……」
のりすけはそう言ってたえこをなだめたものだった。
実際、目に見えるようなせっかんをおこなえば児童相談所からドメスティックバイオレンスだと訴えられかねない。
たえこと、のりすけはまさに断腸たる思いで重度である知的障害者のイクラを見ていた。
しかし、日中仕事で外に出かけるのりすけはまだましである。
昼夜イクラを見ていないとならないたえこの心労はなみなみならないものがあった。
そんなことからたえこはパチンコに溺れるようになったのである。
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