序章

2/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
また、殺人だ。 机の上に広げた昼食を食べている最中、マヤの耳に、物騒な話が飛び込んでくる。今、校内は近頃勃発している、連続殺人事件の話題で持ち切りらしい。教室の中で昼食を取るクラスメートの数人が、殺人事件の話題で盛り上がっていた。 マヤにとって、関心はあるものの、どちらかと言えばどうでも良い事のひとつだ。このご時世に殺人事件なんてよくある話で、どうせそのうちに犯人が捕まるのだから。それに、事件は自らの住む場所とはかなり離れた場所で起きているので、巻き込まれるはずがないと、確信に近い感情も持っている。 マヤは耳に入ってくる情報を聞き流し、再び目前にある弁当に手をつけようとしたが、隣に座る友人、美加がマヤに話しかけてくる。 「ねえマヤ。沖縄からどんどん上がってきてるみたいじゃない? 切り裂きジャック」 美加が、突然話題をふってくるのは日常茶飯事だ。マヤは内心、食事中に殺人事件の話はしたくはないと思っているが、口には出さない。 「なあに、切り裂きジャックって」 「連続殺人事件の犯人のコト! だって、手口がそんな感じじゃん」 “切り裂きジャック”というあだ名に、マヤはなるほどと頷く。犯人は、犠牲者をズタズタに切り裂いて、殺害しているらしい。中には、身体の一部が今だに見つからないという遺体もあるという話だ。 「そっか。でも同一犯なのかな? 複数人だったりして」 弁当箱に入ったサラダをつつきながら、殺人事件の話に乗る。 「有り得る! なんか、カルトな団体が関与してるかもって噂もあるし。怖いよねぇ襲われたらどうしよ!」 余り怖くなさそうに言う美加に向かって、マヤは笑う。 「大丈夫だって。もう、犯人が捕まるんじゃない?」 その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。途端に慌ただしくなる教室内で、マヤと美加は、弁当箱を手早くしまい込むと、自席についた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!