序章

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学校を終え、マヤはそのままアルバイト先に向かう。アルバイトとは言っても、親戚のおばさんが店長をやっている小さなラーメン屋の手伝いだ。 「天気、わるくなりそ……」 事故の多そうな見通しの悪い交差点を通った後、足を止め、空を見上げる。色の悪い雲が一面に広がっていた。明らかに、雨雲。大雨になったら、大変だ。 「……急ご」   今にも雨が降りだしそうだったので、マヤはアルバイト先に急いだ。生憎、傘を持って来ていなかったので、今降られると少し困る。内心、朝の天気予報をちゃんと見ておくべきだったと、後悔をした。 スカートがめくりあがるのを多少は気にしつつ、疾走する。人通りも車もかなり少ない道なので、本気で走ってもまず、大丈夫。とマヤは思っていたが、珍しく、前方から黒い軽自動車が走ってきているのを確認した。車道と歩道の区別がつきづらい程狭い道なので、事故など、万が一のことを考えてマヤは止まり、車が行くのを待つことにした。 ゆっくりとした速度で黒い車が来る。あちらも、万が一のことを考え、速度を落としているみたいだった。と、突然マヤの隣で車が停まる。マヤはびっくりして、後ずさる。そのまま何事かと見ていたら、暗い色をしたウインドウが、ゆっくりと開かれた。 「こんにちは。お嬢さん、ちょっと道が訊きたいんだけど……」 中性的な声色だった。開かれたウインドウから出されたその人の顔を見た瞬間、マヤはその人を美しいと感じた。本能レベルで惹きつけられるような、奇妙な魅力を感じた。 その人の顔は、少し日本人離れをしている。後ろで束ねられた琥珀色の髪に、碧色の瞳。しかしだからといって外国人という風ではない。外国人の血を引く日本人だと、マヤは思った。 「あっ……はい」 少しの間をおいて、ようやく返事をする。返事を聞いた後、綺麗な人物は柔らかな表情で、マヤに質問をする。 「この辺で、車を停められる場所って知っているかい?」 どうやら、この辺りは初めてらしい。マヤはああ、と頷き、知っている駐車場を教える。 「えっと、このまま真っすぐ行ったら広い道に出るので、そこを右に曲がってずっと行ったらありますよ」 「真っすぐね……」 綺麗な人物は周りを見ながらウンと頷き、マヤの方を見た。 「じゃあね、ありがとう」 「は……はい」 マヤに柔らかな笑顔を向けた後、その人はウインドウを閉め、車を走らせて行った。
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