1.不可抗力

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そりゃあ、餓鬼の頃は自分の中であの人はヒーローだった。 両親も、じいさま、ばあさまもいつもあの人の話をした。 聞かされた数々の武勇伝に、目を輝かせた。 何故あの人の話をするかなんて、気にかけたこともなかった。 だから、知らなかったんだ。 「清音、清音、お前も人を殺したりするのか?」 小学生の残酷な好奇心。 「え……?」 「だって、ほら、清音はあの人の子孫なんだろ!」 なんの事かわからなかった。 自分が人殺しなんて、考えた事も無かった。 「あの有名な、人斬り集団の    ―――永倉新八って人!!」 聞きなれた、“あの人”の名前。 あの後すぐに、家に置いてあったパソコンで新撰組について調べた。 暗殺 局中法度 切腹 戦争 朝敵 そして局長の斬首―― そこまで読んで、手が止まった。 血にまみれた、黒い歴史。 あの人は、そんな人斬り集団の組長。 そして理解、いや、認識する。 僕の祖先は、幕末の人斬り集団、新選組の2番隊隊長 永倉新八なのだと。 「う……ぁ…………」 吐き気が襲った。ただ怖かった。漠然と恐ろしかった。 自分にはその、血を浴びた血が流れている。 人斬りの子は所詮、人斬り。 尊敬が一転、恨みに変わる。
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