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「……も、もう一回……!」
私は、寒さも空腹も忘れて、震える手でもう一本のマッチを擦った。
すると、燃え上がる炎と一緒に、再びお父さんの苦悶の表情が浮かび上がった。
「あ、あは、あは……あはあはあは――ッ!!」
お父さんは、さっきと同様、ダイニングで踊り狂っていた。
頭髪が、衣服が、見る見るうちに燃え上がり、炎に溶けてゆく。
黒煙がお父さんを包みこむ。肉の焦げる臭いが鼻を衝く。
普段は耳障りなお父さんの絶叫も、この時に限っては最高のカタルシスを私にもたらした。
――踊る、踊る、踊る。
火だるまのお父さんは、まるで悪魔に取り憑かれた様に、ダイニングで暴れまわった。
「あっ……」
マッチの炎は消え、再び眼前に、暗い路地と家々の灯りが映った。
「……もう、せっかく良いところだったのに」
そう毒づいて――ふと、私は頭上を見上げた。
雪の花びらが、音もなく降り注ぐ空。
それは、息を飲む程に綺麗で――もしも帰る家があるのなら、天使の羽が空から降っている様に、私の目には映った事だろう。
でも今の私は、凍える迷い人。
白く輝く無数の結晶は、今の私にとって、私の死期を早める以外の意味を持ち得なかった。
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