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「……くしゅん、くしゅん」
くしゃみを二回。
そこで、自分にくしゃみをする程の力が残っていた事に、軽い驚きを覚えた。
――もしかしたら、火だるまのお父さんを見て、生きる力が少しだけ戻ってきたのかも知れない。
「……もうちょっと、頑張れるかな?」
何かの偶然でマッチが売れたなら、取り敢えずお金は手に入る。
帰る家がなくても、お金さえあれば、少しは暖かい物が食べられるから……。
「――よしっ!」
思い立ち、立ち上がろうとした刹那――闇夜という背景の隅を、一筋の光が通り抜けた。
「……誰かが死ぬのね」
私は、確信を持ってそう呟いた。
それは、唯一私を抱きしめてくれたおばあさんが、私にこう教えてくれたから。
『流れ星は、誰かの魂が神様のところへ向かう意味なんだよ』と――
「死ぬとしたら……お父さん、かな?」
私は、ふとそんな気がした。
というか、それ以外有り得ないと思った。
むしろ、いっその事そう決めつけてしまえば良いと思った。
「お父さん、さよなら。今までお世話になりました。薄汚い畜生は畜生らしく、惨めに無様に死にさらして下さい」
私はこの時、今まで生きてきた中で一番輝かしい笑顔を浮かべていた事だろう。
そこで私は、お父さんの断末魔がまた聞きたくなり、再びマッチを擦ってみた。
すると、たちまちの内に、眼前に史上最高の光景が広がる。
「あぁ、何だか気持ち良いなぁ……」
炎と過激なダンスを踊るお父さん。何度見ても飽きない。
自分を苦しめて来た人間の顔が歪む様は、私に『生きる歓びは何なのか』という事を教えてくれる。
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