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「……時間切れ」
マッチが燃え尽きると同時に、お父さんの顔も見えなくなった。
「もう全部つけちゃえっ!」
エプロンからありったけのマッチを取り出し、まとめて火をつけた。
……商品であるマッチを使ってしまう事に、躊躇いはなかった。
またあの光景が見れると思えば、私は何を差し出しても、全然惜しいとは思わなかった。
「うわぁ……! すごいすごいすごいッ!!」
それは、一つ一つ点けていた時とは、段違いの迫力だった。
……まるで、目の前に本物のお父さんがいるみたい。
ずっと悲鳴が大きく聞こえた――鼓膜が破れるんじゃないかってくらいに。
吐きそうになる位に、人間が焼けるリアルな臭いがした。
私のお父さんが、みるみる内に醜悪になってゆく。
良い――すごい良い!
もっと苦しんで! もっと悶えて! もっと叫び散らして!
もっと、もっと、もっと、もっと――!
……と、その時。
お父さんが……あくまでも、幻の筈のお父さんが。
「……えっ?」
私の方に、手を伸ばしてきた。
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