マッチ売りの病み少女

7/9
前へ
/11ページ
次へ
「……時間切れ」  マッチが燃え尽きると同時に、お父さんの顔も見えなくなった。   「もう全部つけちゃえっ!」  エプロンからありったけのマッチを取り出し、まとめて火をつけた。  ……商品であるマッチを使ってしまう事に、躊躇いはなかった。  またあの光景が見れると思えば、私は何を差し出しても、全然惜しいとは思わなかった。   「うわぁ……! すごいすごいすごいッ!!」  それは、一つ一つ点けていた時とは、段違いの迫力だった。  ……まるで、目の前に本物のお父さんがいるみたい。  ずっと悲鳴が大きく聞こえた――鼓膜が破れるんじゃないかってくらいに。  吐きそうになる位に、人間が焼けるリアルな臭いがした。  私のお父さんが、みるみる内に醜悪になってゆく。  良い――すごい良い!  もっと苦しんで! もっと悶えて! もっと叫び散らして!  もっと、もっと、もっと、もっと――!  ……と、その時。  お父さんが……あくまでも、幻の筈のお父さんが。 「……えっ?」  私の方に、手を伸ばしてきた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加