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―彼らは貴方が思うほど
甘くはありません―
突き刺すような冷たい風が頬を掠め、通り過ぎる。
朦朧とした意識はその冷たさをたよりに徐々に覚醒し、薄ぼんやりした世界から目を覚ますんだ。
「…………」
白。純白ではないが。瞼を開き目に真っ先に飛び込んだのがそれ。
それからゆっくりと起き上がり当たりを見渡すとそこは一面氷と雪の世界。壁は青黒い岩が目線高く隔たり、その先にぽっかり開いた大穴から覗く灰色の空がこんこんと雪を降らす。
「………氷の、洞窟」
どうやら眠っていたというわけではなさそうだ。
こんな所で眠る人はそうはいないでしょう。
それに身体の所々が痛い。
青黒い壁と言っても所々に人が通れる程の足場が幾つかある。
そこから落ちたと考えれば今の状況も納得がいく。
とはいえ、ここで何時までもじっとしている訳にもいかない。
何せ私は薄着なのだ。少なくとも、こんな寒い場所に来るような服ではないことは確か。
「早く抜け出さなきゃ…」
軋む身体を引きずりながら、私は歩きだした。
雪は足に絡み付き、氷は歩みを許さない。行くな行くな、ここに留まり眠ってしまえ。
子守唄でも聴いてるみたいに不思議な静けさが支配する世界。
けれど無音にも思えるこの世界にだって音はある。
雪が降り積もる小さな音。
隙間を抜ける風の音。
けれどそれら一つ一つをいっぺんに拾えば、人間は聞き分けられず、無音となる。
その無音を壊すように、私は雪を踏み締め、歩く。
この音は命綱。
"まだ生きている"と自覚するための、大切な音。
しばらく歩いただろうか、ようやく道の先がぼんやりと明るくなった。
「……外」
私は逸る気持ちを抑え、ゆっくりとその光に近づいた。
その先に見た景色に私は息を呑む。灰色の空が開け一面に広がる雪。まさに雪原と言うに相応しい世界。そしてその向こうには雪を被った山々が見下ろせる。
しかし景色に見とれている場合ではない。何とかして麓に下りる道を探さねばならない。
何せ山が見下ろせるほど、私は高い所にいるのだから。
辺りを見渡せど細かい雪が視界を遮りよく見えない。
仕方なく元来た道に引き返そうとしたその時―
"ねぇ、人間がいるよ"
無邪気に小さく笑うような声が頭に響く。
"でも武器を持っていないね"
"まだ子供だ。珍しいね人間の子だ"
「…だれかいるの?」
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