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ゆっくりと振り返り辺りを見渡せど細かい白に遮られよく見えない。ただ、二つの小さな影がぼんやりと見えるだけだ。
これは好都合なのかもしれない。何者かは解らないが、山にいるなら麓への道を知っているはず。
「…あの、少し聞きたいのですが」
私はゆっくりと影に近づいた。
しかし近づけば近づくほど、私は近づいた事を後悔した。
「……何、何なの?」
二つの影は近づくにつれて白い視界が薄れその姿をあらわにする。
縦に細い瞳孔と金色の虹彩。
青白い鱗に被われた身体。
黄ばんだ鋭い歯を覗かせ、低く構えた姿は到底人とは呼べない。
まるで爬虫類を思わせるその姿に私は後ずさるすることさえ出来ずにただその場に立ち尽くす。寒さで足がやられたのか、それとも恐怖からなのか、どうにも足が動いてくれない。
"気づかれちゃった"
"平気だよ、子供だからね"
響く声を掻き消すくらい、頭の中で逃げろ逃げろと騒ぎ立てるが身体が言うことを聞いてくれない。
"食べていいかな"
"食べちゃおうか"
二つの白い生き物がぐっと低く構えて、雪を蹴りあげ跳び上がる。
殺られる。
固く目を閉じ、身を屈める。
言うことを聞いてくれない身体の精一杯の抵抗。
「………………?」
しかしどうだろう?
いくら待っても想像していた鋭い痛みが襲ってこない。
それとも、痛みすら感じぬままやられてしまったのだろうか?
恐る恐る身体を起こしてそっと目を開けると目の前には大きな影が遮り、その先には白い生き物の一匹が首筋から血を流し倒れている。
「…一体、何が―」
「……無事だな?だがもうしばらくじっとしていろ。いいな、動くなよ?」
低い声が私の声を遮る。
声の方を見上げれば、あの大きな影。
その影は巨大な剣を構え私に背を向けたまま淡々と話す。
「…あの、貴方は?」
「質問なら後で聞いてやる」
相変わらず背を向けたまま、そう言うと剣を構え直し、身構え、振り下ろす。
あの白い生き物に向かって。
一瞬だった。
耳につくうめき声が響き赤い飛沫が雪を染め、青白い身体が雪に埋もれた。
倒れた場所からじんわりと同じ赤が広がり、また静寂が戻る。
色んな事が一瞬で起こり、思考が整理出来ない。
わかるのは、さっきまで生きていたあの白い生き物はもう動かないんだってことだけ。
そう思うと、自分を食べようとしていた奴なのに、何故だか喉がつかえるような気持ちがした。
ほんの少しだけ。
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