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「…大丈夫か?」
ぼんやりとした頭に低い声が響く。顔をあげれば私を助けたあの大きな影が私に手を差し出していた。
鎧を身に纏い顔は兜でよく見えないが恐らく男の人だろう。
男の手につかまりゆっくりと立ち上がり服に着いた雪を手で掃った。
「あの…ありがとう」
「構わない…まぁ俺もお前にいろいろ聞きたい処だがここじゃあお前が凍えそうだな」
そう言って鎧の男は私の手を掴み歩きだす。訳が解らないまま私はただ雪の中を引きずらた。
そして引きずらること数分、小さな洞窟の中に連れて来られた。
やけに見覚えがある、というよりは覚えがないほうがおかしいか。
私が最初にいた場所なのだから。
「あの…?」
「ここなら外よりマシだろう。まぁたいして変わらないが」
そう言いながら男は地べたに腰を下ろすと兜を外して私を見上げた。
赤く短い髪に淡褐色の瞳。
その鮮やかな色が無彩色の世界によく栄える。
しばらくぼんやり眺めていると男が徐に口を開いた。
「それでだ。お前、こんな所で何をしていた?」
その目は随分と不機嫌な色を含み、私を見つめる。
いや、不機嫌というよりは小さな子を叱り付けるような、そんな瞳。
「……」
「あと少しでお前ギアノスに殺される処だったんだぞ?護身の武器も持たずに、そんな薄着で雪山に来るなんて、何を考えてる」
「……ごめんなさい」
「…謝るのなんか後でもいい、俺は何をしていたのかを聞いている」
「私は……」
記憶を辿り、探す。
目覚めるもっと前。
何をしにここへ?
私は何をしにここへ来たの?
「…わからない」
「はぁ?」
驚きたいのはこっちだ。探せど探せど、目が覚める前の記憶がないのだ。
思い出せないんだ。
「…名前は?」
「わからない」
「……家は?」
「……わからない!!」
目が覚めてすぐに気づけばよかったのだ。それが今になってズキンと音がたちそうなほどの痛みとともに脳を一遍に支配する。
何で雪山にいるの?
何で倒れてた?
何処から来たの?
何の目的で?
私は――だれなの?
「いやぁぁあ!!」
「おい!どうした?」
「なんで!?わからない!!どうして!?」
自分が何者なのかわからない不安は身体全体を包み底の無い沼みたいに、もがけばもがくほどその不安に意識は飲み込まれる。
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